Healing of the Blind Man「盲人を癒す」マルコによる福音書10章46節〜52節
今回の学びは、46節から52節という短い箇所に書かれている奇跡の話である。
マルコの福音書に書かれている奇跡の話の中で、これが最後に書かれた奇跡だ。それには特別な意味があるのではないかと思う。それはこの奇跡が起こったのはイエスがイスラエルに行く途中であり、イエスはご自分がイスラエルに行く事は、十字架に架かり死ぬ事である、という事実をすでにご存知であったからだ。エリコからイスラエルに行く途中は石ころだらけのかなり厳しい道を歩かなければならない、しかもイエスの心中は行く手に待ち構えている十字架の死が重く伸し掛かっていたのだ。心身共に試練の旅路だったに違いない。
先ず、イエスの一行はエリコに到着する。そして大勢の群衆と共にエリコを出て行こうとした時のことである。バルティマイという道端に座って物乞いをしていた盲人が、イエスが来た事を知って大声で、「ダビデの子イエスよ、私を憐れんでください」、と叫び始めた。ここでよく考えてみると、マタイの8章22節にでてくる盲人と違って、この箇所ではマルコは盲人の名前を「バルティマイ」と書いている。ただの「物乞いの盲人」ではなく、「バルティマイ」という名で呼ばれる所に相手を尊重し、一人の人間として扱っている事がわかる。私たちだって街角に立ってお金を求めているホームレスの名前を聞く事など先ず無いだろう。
もし彼らの名前を知っていて、名前で呼んであげたら、それは彼らの人格を大切にしていると同時に、親近感を持つ事にもなるだろう。もう一つ、マタイの8章22節では、群衆が盲人をイエスの前に連れて来て、癒してくれるようにと頼んでいるが、ここでは群衆はバルティマイを叱りつけて黙らせようとしていると書いてある。随分の差である。ところが、この男は群衆に叱りつけられてもめげずに叫び続けた。彼がいかに気丈な人間であったかが解る。バルティマイに対して意地悪だった群衆も、イエスが「あの男を呼んで来なさい」と言った途端に態度が変わり、バルティマイに「安心しなさい、立ちなさい、お呼びだ」と言う。彼は躍り上がって喜び、イエスの所に来た。そしてイエスはこの盲人にわざわざ、「何をしてほしいのか」と聞いたのだ。盲人だから目が見えるようになりたいのは解りきっているだろうに、なぜわざわざ聞いたのだろうか?それは、イザヤ書42章の16節に書かれているように、神に出来ない事はなく、決して求める者を見捨てる事はないという事を示している。本人の口から、何を自分が求めているのかを言わせる事によって、彼が「見えるようになりたい」という願いをイエスには成就させることができる。それは文字通りに周りの人達や景色が見えるようになるだけではなく、自分の願いを成就してくれたイエスが誰なのか、真の姿が見えるようになる、という事なのだと思う。
バルティマイがイエスの助けを求めて叫んでいる時に「ダビデの子イエス」と呼んだが、何故「ダビデの子」と言ったのだろうか。それは当時の民衆が、ローマ帝国や、他の強国の圧力に辟易していて、いつかは自分たちを救ってくれる
リーダーが現れるに違いないと信じていた。そのリーダーが「ダビデの子」なのである。そして彼らにとって「ダビデの子」である力強いリーダーのイメージは
軍事的にも政治的にも力のある人物であったに違いない。しかし、イエスは全く正反対だったのだ。イエスは軍力で人々を救う為に来たのではない、国の政治を変える為に来たのでもない、イエスにとって軍事力や政治力などなんの意味もなかった。彼が来たのは人々を癒し、愛し、平和をもたらす為なのだ。バルティマイは、目が見えるようになって、「ダビデの子」の真の意味が分かったに違いない、そして「ダビデの子イエス」が真の救い主であることが、彼には見えるようになったのだ。正に「見えるようにして下さい」と願った事をイエスは成就された。
私たちもバルティマイと同じように盲人なのかもしれない。そしてイエスが私たちに「何をしてほしいのか?」と聞かれたら、私たちは何と答えるだろう。
「見えるようにしてください」と答えられるだろうか? イエスが弟子達に何を望んでいるのかと聞いた時に、ヤコブとヨセフが「あなたの右と左に座らせて下さい」と願ったように、栄誉の座だけを求めているのが私たちではないだろうか?
「見えるようにして下さい」と信じて祈る時、私たちの救い主イエスは必ず私たちに道を示して下さる。イエスはエリコからイスラエルへ行かれる時、それは死への道のりだったにも拘らず、救いを求めて叫ぶバルティマイの声を聴き、立ち止まって彼に救いの手を差し伸べられた。私たちの救い主イエスは、私たちを決して見捨てる事はなく、常に私たちを導いて下さる。私たちもバルティマイのように、しっかりと目を開き、イエスの姿をしっかりと見て従って行こう。